ウォータージェットとは?
「ウォータージェット」とは、いわば水鉄砲の親分みたいなもので、超高圧に加圧され超高速に噴出された水流です。
「ウォータージェット加工」とは、この超高圧高速水を活用して「切断(カット)または穴あけ・溝掘り・剥離・バリ取り・はつり・掘削・ショットピーニング・洗浄・撹拌」などの加工法です。
高圧水流:ウォータージェットは非常に高い圧力(通常は数万psi)で水を噴射します。この高圧水流は、多種多様な材料を精密に切断するのに十分な力を持っています。
研磨剤の添加:硬質材料(例:金属、石、ガラス)を切断する場合、水に研磨剤(通常はガーネット粉)を混ぜて使用します。これにより、切断能力が大幅に向上します。
幅広い材料への適用性:プラスチック、金属、セラミックス、石、ガラス、木材など、さまざまな材料に対応できる汎用性の高さがあります。
精密なカット:高精度で複雑な形状や細かいデザインも切断でき、余分な加工の必要が少なくなります。
環境に優しい:ウォータージェット加工は熱や有害なガスを発生させないため、環境に優しい加工方法とされています。
冷加工法:ウォータージェットは基本的に冷加工法です。高圧で噴射される水流は、材料を物理的に切断しますが、それに伴う熱発生が非常に少ないです。このため、加工中に材料が高温にさらされることがほぼありません。
ウォータージェットの活用分野の分類
ウォータージェット加工技術はさまざまな分野で広く活用されており、それぞれの分野での使用方法には特徴があります
建設・土木分野
建設と土木工事では、ウォータージェットは主に硬質材料の切断や形成に使用されます。道路、橋、ビルの建設でのコンクリートやアスファルトの切断、精密な造形、または古い構造物の解体にも利用されます。
医療分野
ウォータージェットは手術用の精密な切断工具として使用されることがあります。例えば、骨やその他の硬い組織の切断に使用されることがあり、その際には熱損傷を最小限に抑えることができます。
工業分野
工業分野でのウォータージェットは、金属、プラスチック、ガラス、石などの多様な材料を切断、形成するのに使用されます。自動車、航空宇宙、電子機器などの製造において、精密な部品の製造や形状加工に広く利用されています。
食品分野
食品業界では、ウォータージェットは衛生的かつ高速で食品を切断する手段として使用されます。肉、魚、野菜、菓子などの切断に用いられ、食品の品質を損なうことなく、効率的に処理が行えます。
※上記の加工法以外にも、例えば船舶などにおいて推進装置としてウォータージェットが使用されます。これは、高圧の水流を噴射して推進力を生み出すシステムです。ウォータージェット推進は、高速船や特定の軍用船舶で好まれ、機動性や速度、浅い水域での運航能力の向上に寄与します。
工業製品製造分野のウォータージェット加工
米山製作所のウォータージェットは、工業分野のひとつです。
より固い素材を高精度に加工するアブレイシブ加工
工業製品製造分野の一般的なウォータージェットシステムは、水道水をミクロンフィルターでろ過し、専用高圧ポンプで320MPa程度に加圧し、φ0.1~0.3mm前後の穴(ウォーターノズル)から速度マッハ2~3程度の細い高速水流を発生させます。のφ0.1~0.3mm前後の水流の噴出した先で研磨材(砥粒)を混合させて、その先に取り付けた φ1mm程度のノズル(ミキシングノズル)から噴出した水流でカット等を行う工法をアブレイシブ ジェット加工(通称 ウォータージェット加工、研磨材入り加工など)と呼びます。
ハイドロジェット加工
アブレイシブジェット加工に対し、研磨剤を含まずφ0.1~0.3mm前後の細い水流でカット等を行う工法を ハイドロジェット加工(通称 ハイドロ加工、水のみ加工など)と呼びます。
ウォータージェット加工の特性から得られる様々な特長
ウォータジェットの「大きな2つの特性」により、工業分野でウォータージェット加工が選ばれるさまざまなメリットがあります。
特性.1
素材にダメージを与えない
素材機能を損なわない・変形しない
特性.2
あらゆる素材の加工ができる
素材機能を損なわない・変形しない
上の特性により、次のメリットが生まれます。米山製作所では、これらのメリットを最大限活用できるよう、ご提案をいたします。
ウォータージェット加工は、熱影響が少なく
素材機能にダメージを与えない特長があります
ウォータージェット加工には、他の加工法とは違う特長があります
- 加工による素材に対する熱影響がない(少ない)
- 加工による素材に対するストレスがなく(少なく)応力も残らない
- 加工による素材の改質や変質がなく、素材機能にダメージを与えない
- 上記の特長により有毒ガスや新たな化合物が発生しない
- 上記の各特長により素材に歪みが発生しない
- 上記の各特長により柔らかい素材や薄い素材、脆弱材も加工しやすい
- 硬い素材や靱性が高い素材も加工可能
- 上記の各特長により様々な素材の加工が可能
- 上記特長により複合材や積層材の加工が可能
- 水流の調整によりバリ取りや剥離などの加工が可能
- 水流は水道水、研磨材は天然石なので環境に優しい
- 水と天然石による加工なので、加工や後処理に油分や添加剤、洗浄剤などを使わない
ウォータージェット加工は、様々な素材の加工が可能です
ウォータージェット加工は素材を選ばず、様々な素材の加工が可能です
- 金属でもプラスチックでもガラスでもセラミックスでも加工が可能
- スポンジやゲルのような柔らかい素材から超合金のような硬い素材まで加工が可能
- 0.1mm厚の薄いフィルムから300mm厚の厚い金属や製品まで加工が可能
- 木材や石材のような天然素材も加工が可能
- 複合材や積層材のような複数の素材でも加工が可能
- 家電製品や装置モジュールなどの切断が可能
他の加工方法との違い
ウォータージェット加工は多種にわたります が、従来の加工法に置き換わるものではなく、それらとの組み合わせにより新たな製品、部品を生み出すための新しいツールの一つであり、それぞれ不得意である分野を 相互補完する工法です。
| 対象素材 | 熱影響 | 加工精度 | 速度 | 薄板 | 厚板 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ウォータージェット加工 | 素材を選ばない | なし | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 切削・マシニング加工 | 金属・樹脂 各種(装置毎に素材限定) | あり | ◎ | 〇 | △ | 〇 |
| 板金加工(タレパンなど) | 金属(鋼材・アルミ・SUSなど) | あり | 〇 | ◎ | 〇 | × |
| レーザー加工 | 鋼材など | あり | 〇 | ◎ | 〇 | × |
| ワイヤーカット・放電加工 | 伝導素材・鋼材 | あり | ◎ | △ | 〇 | 〇 |
| 溶断 | 鋼材 | あり | △ | 〇 | △ | 〇 |
ウォータージェット加工の切断性能・切断品質に影響する要素
同じウォータージェット機を使った加工でも、必ずしも同じ仕上がりになるとは限りません。 米山製作所の加工は「ウォータージェット理論」にのっとった熟練技術師による匠のウォータージェット加工です。
ノズル開口部の真円度
真円度により切断面の精度が異なります。 ノズル経の管理が必要です。
カッティングヘッドの送り速度
加工素材ごとに適切な速度があります。
材料表面までのノズル距離
1mm~2mmで設定しています。 離れすぎると水流が広がり精度に反映します。
ポンプ圧力
水圧でカットするウォータージェットなので、安定した圧力でカットする必要があります。
ウォータージェット加工が用いられるシーン
定番的な利用シーン
- チタン・ニッケル・アルミ・銅・真鍮・SUSなど金属板の内外形状カット
- ポリカ・塩ビ・アクリル・フォレックスなどプラスチック板の内外形状カット
- ガラス類・ミラー・石材・フェライト・セラミックス・焼結体・ポーラス材の内外形カット
- CFRP・GFRP・超高強力ポリエチレン繊維・アラミド繊維素材のカット
- 各種ゴム・発泡樹脂・布材・MDF・デラニウム・ライオンボード・ハニカム材などのカット
- 金属やプラスチックのJIS試験片製作
- 製品の内部評価のためのカット(定期確認、不具合確認、展示、開発、ティアダウン、非破壊検査確認など)
特殊な利用シーン
- 表面剥離、バリ取りなど
- ガラス板5000個穴加工
- カットサンプル(構造確認等)
- 0.5ミリ以下の薄板重ね加工
- チタン等レアメタル有効加工
- 異種素材の積層材切断加工
- 素材を問わず各種切断加工
業界別利用シーン
自動車産業
自動車産業では、ウォータージェット加工が内装材から金属パネルまで幅広い部品に活用されています。例えば車内のカーペットや断熱材は、研磨剤を含まないジェットで素早く裁断することで繊維のほつれを抑え、寸法精度を安定して保つことができます。金属パネルやシャーシ部分については、研磨剤混入ジェットを用いることで高強度や高機能な複合材および積層材の加工が容易となります。また、レーザーなどの熱加工と異なり熱歪みやバリが発生しないため、仕上がりの品質と安全性にも優れています。結果として、高効率な生産と高い製品クオリティの両立が実現し、自動車部品メーカーの工程改善や軽量化ニーズにも応えられる技術として注目されています。
航空・宇宙(防衛)産業
航空機や宇宙関連の部品では、軽量かつ高強度な素材(チタン合金や複合材など)の精密加工が欠かせません。ウォータージェットなら、熱の影響を与えずに高硬度材料を切断できるため、素材の特性を損なわずに仕上げることが可能です。特にジェットエンジンやロケット関連部品は厳密な精度管理が求められます。切断面にバリや焼けが出ないウォータージェット加工は、後工程の研磨や検査工程も短縮します。また、複雑な曲面形状や厚手の複合材も一貫して加工できるため、製品開発や小ロット試作にも柔軟に対応できます。こうした特長が、航空・宇宙・防衛分野での採用を後押ししています。
エレクトロニクス業界
エレクトロニクス製品では、プリント基板や各種センサー、シリコンウェハーなど、熱や振動に敏感な部品が多く存在します。ウォータージェット加工は、非接触でありながら精密な切断が可能なため、これらデリケートな材料を傷つけにくい点が強みです。また、切断による熱変形や微小クラックのリスクが少ないことから、製品歩留まりの向上や信頼性確保にも寄与します。さらに研磨剤を使う場合は硬質ガラスやセラミックスなどにも対応できるため、幅広い素材を一括で処理可能です。産業に多様化により、特殊機能かつ小ロット部品の生産にはウォータージェット加工は有効です。
医療機器・医療分野
医療分野でのウォータージェット加工は、インプラントや人工関節、医療用フィルムなどの製造に活用されています。特に高機能金属(チタンなど)や極薄の樹脂フィルムの切断では、ウォータージェットなら熱を与えず加工変質も最小限で済むため、製品の性能を損なわない仕上がりが実現します。インプラントなど体内に埋め込む部品は高い安全性が求められるため、材料特性を変えないウォータージェットのメリットは大きいです。さらに、切断面がきれいなため後処理工程を削減できることもコスト面で有利に働きます。こうした理由から、医療機器の高品質化に欠かせない加工技術の一つとして注目されています。
加工事例
ウォータージェット加工のデメリット
製品が濡れます
水を使用しているため、加工製品が濡れます。そのため濡れることで変質してしまう紙製の物は加工できません。
精度はCO₂レーザー程度
ウォータージェット加工は精度の高い加工はできますが、超精密機械加工までの精度な加工は実現できません。
テーパーが発生します
水での加工の都合切断面にテーパーが発生します。特別な機器や角度を調整することで誤差を減らすことは可能です。
ウォータージェット加工と適応素材
加工材の材質を問わず多くの素材に適合します。軟質材・硬質材、単質材・複合材、金属・非金属、通電材・非通電材といっ た違いに関わらず加工が可能です。 特に難削、脆弱、複合、積層といっ た要素を含む機能材や新素材の加工に適しています。
| 材質 | 切断 | 穴あけ | 中繰り | 剥離 | 備考 | 加工事例 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() | チタン・ニッケル | ◎ | ◎ | △ | – | 材料取りにムダがありません | – |
![]() | 銅・真鍮 | ◎ | ◎ | △ | – | 熱歪みが発生しません | – |
![]() | アルミ | ◎ | ◎ | △ | – | 薄板は重ね加工が有効 | 事例 |
![]() | 複合材・積層材 | ◎ | ○ | – | – | 組み合わせは自由です | 事例 |
![]() | SIC ・ アルミナ・セラミックス | ○ | ○ | △ | – | 硬質材に有効です | – |
![]() | カーボン・CFRP | ◎ | ◎ | △ | – | C/C等各種切断可能です | 事例 |
![]() | ポーラス体・焼結体 | ◎ | ○ | △ | – | チッピング・欠けがありません | – |
![]() | ガラス | ◎ | ○ | △ | – | 各種ガラスに対応します(強化ガラス以外) | 事例 |
![]() | ポリカ・塩ビ | ◎ | ○ | △ | – | 溶け・ダレ・有毒ガスが発生しません | – |
![]() | 発泡樹脂 | ◎ | ◎ | – | – | 加工によるつぶれがありません | 事例 |
![]() | CBN・ダイヤ砥石 | ○ | ○ | △ | – | ダイヤモンドホイールに溝入れ | – |
![]() | 石材 | ◎ | ○ | △ | – | 象嵌に有効です | – |
| 木材 | ◎ | ○ | △ | – | 合板・天然木等各種木材に対応します | 事例 |
ウォータージェットQ&A
ウォータージェットは、ノズルから水流を噴射して上から下にカットしますが、加工できる厚みはこの噴射口からテーブルまでの高さとなります。通常ウォータージェットは約150~200mmです。米山製作所の6号機は、噴射口の高さが300mmあり、治具や下敷きを考慮すると約290mmまでの厚さのカットが可能です。







































